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2026.06.24
産業を進化させ、社会を動かす展示会サステナビリティの「いま」と「これから」
~ 一般社団法人日本展示会協会 会長 堀正人氏と語り合う ~
展示会におけるサステナビリティは、努力目標からビジネスの「必須条件」へ。一般社団法人日本展示会協会の堀正人会長を迎え、グローバルMICEにおけるサステナビリティの最前線と日本が直面するリスク、展示会産業の未来展望をテーマにお話を伺いました。

コロナ禍によって再認識された「人と人のリアルな出会いの価値」。産業や地域、社会に対して大きな経済的・文化的インパクトをもたらす展示会は、今や変革の真っただなかにあります。地球環境・社会・ガバナンスといったサステナビリティの潮流が、企業や産業の「責任」から「選ばれる必須条件」へと進化した今、私たち自身がどこへ向かうべきか問われています。本対談では、展示会業界の未来に挑む一般社団法人日本展示会協会(以下、日展協)堀会長と、サステナビリティ推進を牽引する当社の島村が、日本の展示産業が次世代・グローバルで選ばれ続けるため、展示会業界におけるサステナビリティの「現在地」と「未来への展望」を語り合います。
- 次世代に誇れる展示会産業を築く。60周年目の日本展示会協会
- サステナビリティは「加点」から「条件」へ。グローバルMICE市場で進む意識の変化
- 「測定できないものは改善できない」 業界一丸で挑むサステナビリティの共通基盤づくり
- キス・アンド・パンチ ー競い、支え合いながら展示会産業を強くする
- 展示会は経済活動の起点。サステナビリティはポジティブな挑戦である

プロフィール
一般社団法人日本展示会協会 会長
株式会社イノベント 取締役代表執行役社長
堀正人氏
1983年より日系・外資系広告会社にて、国内外のBtoCマーケティング、ブランドマネジメント、海外拠点経営、企業提携やM&Aなど、多岐にわたる業務経験を積む。2010年に株式会社イノベント入社後、2011年より現職。展示会産業の高度化とグローバル化に注力。 日本展示会協会では2011年から理事として活動し、広報やMICE推進など主要委員長を歴任。2024年1月、会長就任。幅広いネットワークと経営視点で、開かれた業界づくりと業界全体の持続的成長に貢献している。

プロフィール
株式会社JTBコミュニケーションデザイン 取締役兼執行役員
島村直樹
1989年JTB入社。法人営業や都内主要拠点の支店長・事業部長を歴任し、幅広い現場経験とマネジメント力を培う。2018年JTBコミュニケーションデザイン(JCD)出向後は新規顧客・事業開発、e-sportsイベントなど先進領域の推進を牽引。 以来、事業共創部長・コーポレートソリューション部長などを歴任し、2024年より現職。業界団体理事としても地域活性・展示会事業の発展に貢献。現場力と革新性を活かし、多様なステークホルダーと社会価値創出に力を注いでいる。
1 次世代に誇れる展示会産業を築く。60周年目前の日本展示会協会
ー はじめに、日本展示会協会についてご紹介ください。
堀氏
日本展示会協会は、2027年に創立60周年を迎える国内最大の展示会業界団体です。現在は282の企業・団体が加盟しており、展示会の主催者や会場施設をはじめ、施工、運営、輸送、人材といった幅広い支援企業で構成されています。
日展協の役割は、個々の企業だけでは解決が難しい業界共通の課題に対し、一体となって取り組むことです。私は2024年1月に会長に就任しました。「開かれた日展協」をスローガンに掲げ、会員・非会員の垣根を超えて関連団体と広く連携し課題解決に取り組み、次世代に誇れる展示会産業を築きたいとの思いで日々活動しています。
島村さんには、日展協の「サステナビリティ推進委員会」の副委員長として深くコミットしていただいており、非常に心強く感じています。

島村
ありがとうございます。2025年に堀会長よりご指名いただき、副委員長を拝命いたしました。
サステナビリティがカバーする領域は非常に広範なため、業界内からも「何から手を付ければよいか分からない」という声を多く耳にします。私たち委員会は、主催者、会場施設、支援企業というステークホルダーごとに取り組みの優先順位を整理し、推進にあたっての「最初の一歩」のハードルを下げることに注力しています。
2 サステナビリティは「加点」から「条件」へ。グローバルMICE市場で進む意識の変化
ー展示会産業を取り巻く環境は、ここ数年でどのように変化しているのでしょうか?
堀氏
コロナ禍を経て、対面でビジネスを行う意義が改めて強く認識されました。実際に相手と会って商談する、本物を自分の目で確かめる、そのリアルな体験価値は、オンラインでは代替できないことが証明されました。現在、展示会はコロナ前の水準を超える勢いで回復しており、産業として次のフェーズに入ったと感じます。サステナビリティを軸に産業構造そのものを進化させる、その次の段階へアクセルを踏まなければならない局面です。
島村
お客様の意識も確実に変化しています。日々の営業活動の中で、クライアントからサステナビリティへの取り組みに関する誓約書を求められたり、環境・人権・ガバナンスに関するアンケートに回答したりする機会が増えてきています。官公庁や自治体案件でも、こうした取り組みが評価の加点要素に組み込まれるケースが増えていて、対応の有無が受注に直結しつつあります。
当社が提供するサービスにおいても、MICE領域でのサステナビリティに資する取り組みは、2024年度から2025年度にかけて大きく伸びています。社会全体の意識の高まりを肌で感じているところです。

ー 海外のMICE業界の動向はいかがでしょうか。日本企業が直面するリスクについても教えてください。
堀氏
海外、特にヨーロッパでは、サステナビリティへの取り組みがすでに事業の"前提条件"となりました。従来は「取り組んでいれば評価(加点)」とされていましたが、今や「対応していないとビジネスから外される」段階に入っています。
たとえば北欧では、商談そのものが目的の場合、環境負荷低減を徹底するため、装飾を最小限のパイプとカーテンだけにとどめる展示会も生まれています。この動きが進む一方で、展示会の本質的な魅力は、目を引く装飾や施工による新たなソリューションや商品との出会い、臨場感、そしてブランド体験を生み出すことにもあると私たちは考えています。単なる削減や一律の制限に留まらず、いかにサステナビリティと創造性の両立を目指すか、ここに業界の本質的な価値創造が問われていると思います。
近年、シンガポール、タイ、韓国といった国々が国家戦略としてサステナビリティを強化し、国際会議や大規模展示会の誘致競争で優位性を築いています。たとえば韓国は、サステナブルなインフラを背景に、先端産業分野のグローバルイベント誘致にも成功しています。日本は現在、展示会場面積の不足やサステナビリティ対応の遅れにより、国際競争力という点で明らかに厳しい局面に立たされています。これ以上の遅れは、ビジネス機会の損失につながる重大なリスクです。 サステナビリティは、単なるコスト削減や規制対応を超えて、業界全体としてより高度な価値を生み出すための前提ともいえます。持続的な発展と日本の国際的な存在感維持のためにも、環境配慮と体験価値の両立を本気で追求していくことが求められています。
島村
先日、「グローバル・エキシビションズ・デー(※注1)」に際し、日展協主催の「Global Exhibitions Day 2026特別セミナー」が開催されました。グローバルな展示会産業の現在地を示す最新データとして、世界全体で年間出展企業は約470万社、来場者数は3億人超、そしてGDPへの直接効果は約16兆円超という、まさに"世界経済を動かすインフラ"とも呼べる規模を改めて実感しました。 こうした巨大市場の中で、日本の展示会産業が輝き続け、グローバルから選ばれる存在であるためには、「サステナビリティ」という共通課題のもと、国際基準や最新動向をキャッチアップしながら、業界全体で変革を起こすことが求められていますね。
※注1:グローバル・エキシビションズ・デー(GED)は、UFI(国際見本市連盟)が2016年に開始した、展示会業界の認知度向上を目的とした国際的な啓発デー。毎年6月の第1水曜日に世界中でセミナー等が開催されている。

3 「測定できないものは改善できない」 業界一丸で挑むサステナビリティの共通基盤づくり
ーサステナビリティへの取り組みが世界の潮流となる中、企業が特に環境課題に向き合うには、まず何から始めればよいのでしょうか。
島村
私たち自身がまず実践したのは、「現状を数字で見ること」。具体的にはCO₂排出量の可視化です。JCDでは2年連続で大規模展示会のCO₂排出量計測を実施しました。計測してみて分かったのですが、展示会に関わるCO₂排出量のおよそ7割は、来場者や出展者の「移動」に起因しています。それまでは「施工や資材の廃棄が多いのではないか」と感覚的に捉えていましたが、データを取ることで真の課題が浮き彫りになりました。このように、まずは現在地を正しく把握するところから始めることが、課題に向き合うための第一歩です。
▶ニュースリリース イベントで排出されるCO₂量を算定
https://www.jtbcom.co.jp/news/2025/1636.html
堀氏
可視化は非常に重要です。「測定できないものは改善できない」というのが、私の基本的なポリシーです。感覚論ではなく、定量的な根拠(エビデンス)を持って取り組むことが、業界全体の信頼性向上にもつながります。その意味で、経済産業省が主導して展示会産業の実態調査(※注2)を実施していただいたことは、大きな前進です。明確な数字があれば、行政や政治に対しても確かな根拠を持って働きかけることができます。
※注2:経済産業省 「展示会産業の国際化のための実態把握等に関する調査研究」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/creative/exposition.html

ー2024年には、業界6団体が連携して「イベント・MICE関係者のための使いやすいサステナビリティガイドブック」を発行されましたね。
堀氏
このガイドブックの最大の特徴は「誰でも始められる設計」にあります。サステナビリティは難しい、コストが高い、大企業向けだという先入観を壊すために作りました。「企画」「設計・施工」「運営」「評価・改善」の4つのフェーズで構成されており、主催者・会場・支援企業のそれぞれに向けたチェックリストも用意しています。何もかもを一気に進める必要はありません。ビュッフェスタイルで、自分たちのイベント規模や事業領域、リソースに応じて「できるところから継続的に取り組む」という考え方を大切にしています。また、本ガイドブックは、グリーンウォッシュ防止にも踏み込んでいます。「やっているように見せる」のではなく、実体を伴った取り組みを求めることが、長期的な信頼獲得に不可欠だと考えているからです。

▶ 日本展示会協会「イベント・MICE関係者のための使いやすいサステナビリティガイドブック」
https://cdn.clipkit.co/tenants/897/resources/assets/000/000/968/original/sustainable_event_mice_guidebook-JEXA.pdf?1726815597
島村
委員会活動を通じて感じるのは、サプライチェーン全体で取り組むからこそ見えてくる課題や解決策がある、ということです。主催者、会場施設、支援企業がそれぞれの立場から知見を持ち寄ることで、「ここを改善すれば全体に好影響が波及する」というポイントが少しずつ見え始めてきました。JCDは、これら三者をつなぐハブとして、業界全体の取り組みを牽引していきたいと考えています。
ー業界が一体となって取り組むことの重要性や意義について、改めてお聞かせください。
堀氏
展示会業界は、主催者・会場・デザイン会社・施工会社・運営会社・輸送会社・人材会社など、多数の事業者が緊密に連携して成り立つ「複合産業」です。だからこそ、個社の努力だけでなく、業界全体としての共通基盤が欠かせません。日展協としては、①共通言語の醸成、②実務ガイドの整備、③人材育成と情報共有、④定量評価軸の確立、という4つの柱で業界全体の底上げを図っていきます。日展協は、「サステナビリティを一部の先進企業だけのものにしない」という姿勢で活動に取り組んでいます。
島村
業界内でも「取り組まなければならない」という意識を多くの方が持っていますから、最初の一歩の入り口を示すことが大切だと思っています。当社は、一般社団法人日本イベント産業振興協会(JACE)が推進する「イベントカーボンシミュレーター」のプロジェクトに参画し、業界内でのCO₂排出量の計測基準の共通化を進めています。一社一社が個々に取り組むのではなく、業界がスクラムを組み、来場者も含めた社会全体が「自分ごと」として取り組む大きなうねりにしていきたいです。
4 キス・アンド・パンチ ー競い、支え合いながら展示会産業を強くする
ー業界全体にサステナビリティを浸透させていくために、今後注力すべきポイントはどこにあるとお考えですか。
堀氏
展示会のサステナビリティは、環境負荷の削減だけを指すのではありません。働き方改革や安全安心の確保、そして人材育成も、サステナビリティを構成する大切な要素です。私は、展示会業界そのものを「持続可能な産業」へと変革していく必要があると考えています。最も深刻な、いわば「一丁目一番地」の課題は、国内における展示会場面積の圧倒的な不足です。日本のGDPは世界第4位ですが、展示会場の総面積は世界15位にとどまっています。会場に余裕がなければ、働き方改革もサステナブルな施工も限界があります。会場面積の拡大は、産業としての国際競争力強化と労働環境の抜本的改善、その両輪を回すために不可欠なインフラ投資なのです。
島村
持続可能性という観点では、人材の確保と育成も大きなテーマですね。若手の育成につながる新たな試みとして、堀会長の旗振りで、競合関係にある展示会主催者同士が「運営の舞台裏」を見せ合おうという活動が始まっています。オープンに知見を共有し、業界全体でレベルアップを図ろうという画期的な試みだと思っています。

堀氏
料理に例えるなら、レシピを教え合ったとしても、まったく同じ味は出せませんよね。ライバル企業であっても、業界全体を活性化させるためには、ノウハウ=レシピは積極的に共有した方がいい。次世代を担う若手たちが会社の枠を超えてつながり、サステナビリティをはじめとする共通課題について本音で語り合う。そうして互いの知見を持ち寄る場を作ることで、新しいイノベーションや効率的な働き方が生まれ、長期的に産業を強くしていくと確信しています。横のつながりができれば、将来的に業務協力や協業に発展することもあるでしょう。私はこれを「キス・アンド・パンチ(Kiss & Punch)」と呼んでいます。ビジネスでは激しく競い合いながら(パンチ)、業界の未来に向けては強固に支え合う(キス)。こうした関係性が、これからの展示会産業を支えていく原動力になると信じています。
5 展示会は経済活動の起点。サステナビリティはポジティブな挑戦である
ー最後に、日本の展示会産業の今後の展望と、読者へのメッセージをお願いします。
堀氏
展示会は、あらゆる経済活動の起点です。経済波及効果、イノベーションの創出、地域活性化、産業競争力の向上、そして人と人とのリアルな交流。これらはデジタル社会でも決して代替できない、社会的な価値があります。一方で、多くの人々が一堂に会する以上、一定の環境負荷が生じることも事実です。このトレードオフを乗り越えていくことが、これからの私たちの使命にほかなりません。「大規模開催か、それとも環境配慮か」という古い二者択一の議論は、もう終わりにしましょう。サーキュラー(循環)型の展示会設計、データドリブンな運営、脱炭素輸送、地域共創型イベントへの転換など、産業全体の再設計を進め、品質だけでなくサステナビリティの面でも「世界最高水準」と評価される日本の展示会産業を確立したいと考えています。
サステナブルであることは、今や世界の「前提条件」です。これをコストや義務としてネガティブに捉えるのではなく、展示会の付加価値を高め、新たなブランドを構築するための「ポジティブな挑戦」と捉えてほしいと思います。読者の皆様には、展示会が持つ社会的価値を改めて感じていただき、この産業をともに支え、盛り上げていただきたいと願っています。
島村
サステナビリティは、今や競争力そのものであり、企業や社会の信頼を築く「未来への投資」だと強く感じています。
JCDは「人と企業と地域をつなぐ最適なコミュニケーション」をサステナビリティビジョンに掲げ、2025年には、持続的な企業価値創出のためのマテリアリティ(重要課題)を再定義しました。①地域活性化への貢献 ②パートナーとの共創による相互成長 ③環境負荷の削減 ④DEIB(多様性・公平性・インクルージョン・帰属意識)の推進と人的資本の拡充 ⑤ガバナンスの強化という5つの柱を軸に、社会や産業全体の持続可能性向上に本気で取り組んでいます。
解のない時代だからこそ、会社や組織の枠を超え、業界全体・社会全体で「より良い未来」を描く必要があります。まずは"できること"から一歩ずつ、ともにアクションを積み重ねて行きたい。それがJCDの願いです。
「何から始めればいいか分からない」と迷われている方は、ぜひ私たちにご相談ください。JCDはMICE運営におけるCO₂排出量の可視化の支援から、サステナブルなイベント企画、「CO₂ゼロSTAY®」や「CO₂ゼロMICE®」といった具体的なソリューションの提案まで、お客様の「最初の一歩」に全力で伴走し、持続可能な未来への道をともに拓きたいと考えています。
▶サステナビリティレポート
https://sustainability.jtbcom.co.jp/download/
▶CO₂ゼロSTAY®
https://www.jtbcom.co.jp/service/energy/co2zerostay/
▶CO₂ゼロMICE®
https://www.jtbcom.co.jp/service/energy/co2zero/
展示会は、産業や地域経済の発展のみならず、多様な価値観が交差し、社会全体を前進させる原動力です。サステナビリティへの挑戦は、単なる環境配慮や義務ではなく、日本の展示会産業を"これから"の時代へ導く礎です。いま求められるのは、個々の企業や組織を超えて「産業全体の未来を創りだす」創造的連帯。 JCDは業界の変革と成長のパートナーとして、皆様の一歩一歩に伴走し、世界に誇れるサステナブルなMICE産業の実現を強く推進してまいります。ともに、「持続可能な未来」の実現を目指しましょう。








