- マーケティング・営業課題
- Report
2025.06.24
変わる展示会、広がる共創
水に関する社会的・環境的な問題に向き合うInterAquaの挑戦

今、水の未来を左右する転換点が訪れています。気候変動による水リスクの高まり、企業のサステナビリティ対応、そしてPFAS※などの新たな課題。こうした中、JTBコミュニケーションデザイン(JCD)は、今年の1月に国内最大級の水ビジネス専門展「InterAqua2025」を開催。来場者数は過去最大を記録しました。今回は、出展企業である栗田工業株式会社の執行役員鈴木氏とプロジェクトリーダーの氏家氏、主催者であるJCDの長谷川・田代が、注目を集める水ビジネスの現在地と展示会が果たす役割について語りました。
※PFAS:有機フッ素化合物のうち、ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物の総称
- 転換期を迎えた水ビジネスの新たな潮流
- 過去最大規模で開催された水の専門展示会InterAqua2025
- PFASは"リスク"か"機会"か──社会の問いに挑む現場のリアル
- 業界発展に向けた水ビジネスの今後
【プロフィール】
鈴木 裕之 氏
栗田工業株式会社 執行役員 バリュー・プロバイディング戦略本部長
1992年入社。紙・パルプ市場における製造プロセス向けケミカル技術に26年間従事。2020年にソリューション推進本部 技術部門長、2023年にイノベーション本部 執行役員本部長を歴任。2025年からは新設されたバリュー・プロバイディング戦略本部の本部長に就任。気候変動という地球規模の課題に対し、我々の世代が行動すべき時との思いから、クリタグループ一体となって社会課題の解決に取り組んでいる。
氏家 章吾 氏
栗田工業株式会社 バリュー・プロバイディング戦略本部 CSVビジネス創出・拡大プロジェクト リーダー
2007年入社。ケミカル技術の営業に13年間従事し、Kurita Dropwise Technology®のビジネスモデルを構築。2020年よりCSVビジネスのマーケティングに携わり、2025年からはその創出・拡大プロジェクトのリーダーに。お客様をはじめとした全てのステークホルダーにCSVビジネスの価値を届けることに挑んでいる。
長谷川 裕久
株式会社JTBコミュニケーションデザイン トレードショー事業局 局長
1993年アイシーエス企画(現JCD)入社以来30年以上にわたりイベント・展示会に携わる。近年はオンライン展示会や新しいビジネスマッチングやリアルを軸に様々な展示会手法に取り組んでいる。
田代 智美
株式会社JTBコミュニケーションデザイン トレードショー事業局 営業第二課
リーダー
2007年ICSコンベンションデザイン(現JCD)入社以来、展示会業務に携わる。近年はInterAqua、Smart Sensing/SEMISOLなど様々な業界の展示会の主催事業を担当している。
1 転換期を迎えた水ビジネスの新たな潮流
―今大きな注目を集める水ビジネスですが、その取り巻く環境変化を教えてください。
鈴木氏
ここ数年、水を取り巻く環境は大きく変化しており、特に2つの重要な動きがあると感じています。
一つは、GHG(温室効果ガス)排出量と水使用量の両方を削減する動きです。特にアメリカの大手テック企業は、半導体メーカーや部品供給企業に対して、再生可能エネルギーの使用だけでなく、節水への取り組みも強く求めるようになっています。近年、「水使用量の削減」が、企業価値や投資判断の新たな評価基準となりつつあります。特に水やエネルギーを大量に使用する電子産業では、GHG排出量削減に加え、水使用量の削減もグローバルで求められるようになっており、この動きは今後、他業種や中小企業にも広がっていくと見ています。
もう一つは、「水リスクの経営課題化」です。気候変動の影響により、世界各地で洪水や渇水といった極端な水災害が頻発しています。企業にとって水は、単なる資源ではなく、事業継続に関わるリスク要因としても捉える必要が出てきています。
また、PFASなどの新たな水質汚染物質や、それに伴う評判リスク(レピュテーションリスク)も無視できません。企業価値の毀損にもつながる、複合的で重大なリスクが増しているのです。
日本では水資源が比較的安定しているため実感しづらい面もありますが、海外に生産拠点を持つ企業では、水不足リスクに対する投資家からの指摘を受け、当社に相談が寄せられるケースも増えています。水不足によって工場の操業停止に追い込まれるリスクも現実のものとなっており、水リスクは今や、サステナビリティ経営において重要な論点のひとつだと考えています。
―こうした水ビジネスを取り巻く環境変化を受けて、InterAqua2025ではどのような変化が見られましたか?
長谷川
InterAquaの来場者数は年々増加しており、今回も多くの方にご来場いただきました。中でも、産業向け排水処理に従事する製造業の方が約45%を占めており、現場における関心の高さがうかがえます。
また、展示会の「来場目的」も変化しています。かつては情報収集の場という側面が強かったのに対し、最近では、具体的な課題解決や技術導入の糸口を求めて来場される方が増えています。実際、セミナーで知見を得たあとに、各社のブースで詳細な技術説明を聞くという動きが定着しつつあります。このように、展示会の価値は、「単に見る場」から「課題と技術が交差するビジネス実践の場」へと進化しています。
2 過去最大規模で開催された水ビジネスの専門展示会「InterAqua2025」
ー2025年1月に東京ビッグサイトで開催したエネルギーイノベーション総合展とは
長谷川
今回の展示会は、「エネルギーイノベーション総合展」として開催されました。
JTBコミュニケーションデザイン(JCD)が主催する「InterAqua水ソリューション総合展」や「Offshore Tech Japan海洋産業技術展」、一般財団法人省エネルギーセンター主催の「ENEX地球環境とエネルギーの調和展」、再生可能エネルギー協議会が主催する「再生可能エネルギー世界展示会&フォーラム」など、4つの主要展示会で構成されており、省エネルギー・再生可能エネルギー・海洋開発・省資源といった幅広い分野を網羅しています。
加えて、素材から加工、センシングまでを扱う展示会なども含め、同時開催は14展にのぼりました。異なる分野が一堂に会することで、業種を超えたビジネス連携や企業同士の共創を促す場となっています。
その中でも、栗田工業様にご出展いただいた「InterAqua2025」は、国内最大級の水ビジネス専門展として特に注目を集め、多くの来場者にお越しいただきました。
InterAqua2025
田代
InterAquaは、JCDが2010年に立ち上げた、水ビジネスの社会実装を後押しする展示会です。16回目を迎えた2025年は、過去最大となる、102社・団体、130小間の規模で開催されました。国内の水インフラや水処理に携わる企業はもちろん、水の計測や分析の技術を持つ企業、管理や運用、メンテナンスを担う企業、さらに大学や研究機関の方々にもご出展いただき、水に関する情報の重要性が改めて注目されました。
今回は特に、産業向けの水処理ソリューションに注力し、工場や施設が抱える「水資源の再利用」「環境リスク対策」「エネルギーコスト削減」といった具体的な課題に対応する企画展示を実施しました。加えて、近年社会的関心が急速に高まっているPFAS問題に対応するパビリオンを新設し、関連する最新技術や企業の取り組みを一堂に集めることで、業界全体が抱える課題の可視化と認識の共有を図りました。
InterAquaでは、展示だけでなく、セミナーやネットワーキングの機会を通じて、課題の可視化と技術の社会実装をつなぐ"仕掛け"にも力を入れています。単なる展示スペースの提供にとどまらず、社会課題に正面から向き合い、それを解決へ導くための枠組みとして、展示会そのものを再設計しています。
ー栗田工業様がInterAqua2025に出展を決めた経緯や目的、出展を通して期待した点を教えてください。
鈴木氏
当社は、「"水"を究め、自然と人間が調和した豊かな環境を創造する」という企業理念を掲げ、水と環境の課題に取り組んできました。従来は、お客様の課題解決を起点にしてビジネスを展開してきましたが、2023年以降の中期経営計画では、従来の顧客価値起点に加え、社会価値起点の新しいソリューションや新しい市場開拓にも取り組むことを目指します。
当社は、従来に比べ節水、GHG排出量の削減、廃棄物の資源化、または資源投入量の削減に大きく貢献する製品、技術、ビジネスモデルを「CSV(Creating Shared Value)ビジネス」と定めています。私たちは、社会課題の解決と事業成長を両立するこのビジネスを加速させるため、今回のInterAquaに出展を決めました。
普段接点の少ない企業のサステナビリティ推進担当者や研究者、開発者の方々と対話し、共創の可能性を広げることが、出展の大きな目的でした。
栗田工業株式会社 企業理念
氏家氏
過去にInterAquaに出展した際は、当社の技術を個別に紹介する形でしたが、今回は「社会課題にどう向き合っているか」というメッセージを前面に打ち出しました。節水の取り組みであれば、単なるコスト削減ではなく、世界的な水リスクへの予防策という視点で訴求することを意識し、節水をする意義を伝えています。
InterAquaのような専門性の高い展示会は、社会価値起点の発信を行うには非常に有効な場だと感じています。
3 PFASは"リスク"か"機会"か──社会の問いに挑む現場のリアル
ーPFAS対策パビリオンを設けた意図や目的
田代
ここ数年、PFASやマイクロプラスチックといった新たな環境リスクが、企業にとって見過ごせない課題となってきました。特にPFASは国内外で規制の強化が進んでおり、企業にとっては対応方針の策定と技術的な対処が急務となっています。
2024年の開催時には、「水処理」や「水質」といった検索ワードが上位を占めていましたが、2025年は「PFAS」が最も多く検索され、社会的関心の急速な高まりを肌で感じました。来場者アンケートでも、「何から手をつけてよいか分からなかったが、具体的なアドバイスを得られた」といった声が多く寄せられました。
展示会には、こうした最新課題に迅速に向き合い、その関心や課題意識を的確に企画へ反映させていく責任があると感じています。
鈴木氏
当社では、PFASは「リスク」であり社会課題であると認識しています。私たちにとって、社会課題の解決は「ビジネスの機会」であり、規制強化や社会的要請に対して、当社の技術や知見を活かしてソリューションを提供することで、顧客の環境対応を支援し、企業価値の向上にもつながると考えています。
実際、今回の展示会でもPFASに関する相談が多く寄せられ、顧客においてもPFASに対する高い「リスク」の認識があることが感じられました。
また、PFASを含む部材の使用も課題であり、欧米の規制動向に即した材料の変更の検討などを進めています。顧客の信頼を損なわないためにも、「リスク」への対応は重要な経営課題であると位置づけています。
ーInterAqua2025ではどのような効果や成果があったのでしょうか?
氏家氏
InterAqua2025では1,400名以上の来場者と名刺交換を行い、さまざまな業種の方と直接対話する機会を得ました。実際に複数の企業とは協業の話も進み始めており、出展の成果を強く実感しています。展示した「CSVビジネス」についても、「導入を検討したい」「さらに詳しく知りたい」といった声を多数いただきました。BtoB企業にとって、リアルな展示会という場でこそ、新しい出会いが生まれ、困りごとや潜在的なニーズを掴むことができると再認識しました。
鈴木氏
当社は、環境貢献への意識が高い社員が多く在籍していることも強みの一つですが、
InterAqua2025のように、CSVビジネスの考え方や社会課題の解決に資するテーマを掲げて出展することは、社員のモチベーション向上にもつながり、「自分たちの仕事が社会に貢献している」という仕事への自信と誇りも実感できる場にもなりました。
田代
まさに栗田工業の社員の皆様の発信が、多くの来場者に明確な目的意識や課題意識を気づかせ、セミナーの集客も非常に好調となりました。席数を増やしてもなお立ち見が出るほどの盛況ぶりで、CSVビジネスや水資源の有効活用等、"自分ごと"として受け止められ始めていると強く感じました。
4 業界発展に向けた水ビジネスの今後
―今後、栗田工業として水ビジネスをどのように展望されていますか?
氏家氏
短期的な課題は、節水とエネルギー使用量のトレードオフの解消です。水の再利用には一定のエネルギーが必要となるため、水処理装置・水処理薬品の技術とデジタル技術を組み合わせ、排水処理をリアルタイムで最適化する仕組みを導入し、エネルギー効率の向上と節水の両立を目指しています。
また、中長期的には、生物多様性を重視した「流域単位での水管理」が重要だと考えています。持続可能な水利用の実現には、企業単独ではなく、自治体や農業など他産業との連携が不可欠です。地域社会と一体となり「流域単位での水管理」をすることこそが、今後の企業価値向上にもつながっていくと感じています。
鈴木氏
さらに私たちは、宇宙というフィールドにも目を向けています。2040年ごろには月面に1,000人規模の滞在が予測されており、地球上と同様に「資源・エネルギー分野」、「生活インフラ」といった水の重要性が高まります。当社は2024年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)とともに国際宇宙ステーションでの水再生システムの軌道上実証を完遂しました。
さらに、資源・エネルギー分野では、水電解によるロケット燃料(水素)や人類の生活に不可欠な酸素を生成するプラント向けに、月の砂(レゴリス)に含まれる水氷を活用した超純水製造技術の開発を進めています。地球上だけでなく、未来の宇宙社会においても「水」は不可欠な資源です。私たちは、この重要な課題に技術と使命感をもって貢献していきたいと考えています。
―最後に、JCDとしてInterAquaや展示会が果たすべき今後の役割をどう捉えていますか?
田代
InterAquaを、単なる「展示の場」にとどめるのではなく、
企業・自治体・研究機関など、立場の異なるプレイヤーが出会い、つながり、共創するプラットフォームへと進化させていきたいと考えています。今回の開催では、リアルとデジタルを融合したデータ活用の可能性も広がりました。たとえば、「誰が・いつ・何に関心を持って来場したか」といった接点情報の可視化が、出展企業の事業成長や、社会課題の解決に資する新たな価値創出へとつながっています。また、栗田工業様のように宇宙という新たなフィールドに挑む企業の姿勢に触れ、今後はこれまで関わりの少なかった業種との接点も広げていく必要性を強く感じました。
InterAquaはこれからも、出展者・来場者双方にとって実効性のある情報提供とマッチングを支援する場であり続けたいと考えています。
さらに、水環境に関する世界的な課題の共有や、SDGsの達成、ESG経営、カーボンニュートラルの推進といった視点も取り入れながら、
日本の水ビジネスの実践を支える"進化する展示会"として、今後もその重要な役割を果たしてまいります。
長谷川
水ビジネスをはじめ、あらゆる産業が社会課題と直面する時代において、展示会の役割も大きく変わりつつあります。もはや「製品を見せる場」ではなく、社会課題と技術、人と人が交差し、未来を構想する場でなければなりません。
InterAquaもその例外ではなく、出展や来場という一方向の関係を超え、課題を共有し、ともに問いを立てていくための共創の場であるべきだと考えています。
そのため、海外の出展者や来場者との接点もさらに強化し、日本の技術が世界の課題にどう応えられるかをグローバルに発信していきたいと思っています。
そして、JCDはこれからも、展示会というリアルな場を起点に、業界や領域の垣根を越え、社会と産業が交差する「共創のハブ」として、対話を生み、変化をつくり出す存在であり続けたいと考えています。是非ご期待ください。