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公共施設の常識を打ち破れ。パルテノン多摩のDX最前線

~プロジェクト担当者に聞く、
公共施設のデジタル化・オンライン化を成功に導くポイント~

ホールや会議室などを利用するために公共施設の予約申請をしたことはありますか? 申請書を書いて、下見、抽選、審査、支払いのために何度も施設に足を運ぶ...。「正直、面倒」と思われた方も多いはず。

公共施設はシステム化やオンライン化などのいわゆるDX(デジタルトランスフォーメーション)の対応が遅れている分野のひとつです。総務省の提唱する自治体のDX推進計画においても、本来DXのための体制の整備期間の目標期日とされていた2021年4月1日時点で「DX推進専任部署を設置できている市区町村」は全体の25.2%、「方針の策定ができている」市区町村は12.6%と特に市区町村での遅れが目立っています。
(出典:自治体デジタル・トランスフォーメーション (DX)推進計画【第2.0版】/総務省)。

一方、そんななかでDXを進め、成果を上げている公共施設があります。それが東京都多摩市にある文化芸術振興のシンボル的な存在である「パルテノン多摩」。定員1,154名規模の大ホールやミュージアムを擁する複合文化施設です。
なぜパルテノン多摩はDXを推進できたのか。そこには、施設運営の一角を担うJCDの、遠山をはじめとした運営企画課の活躍がありました。「ポイントは、小さいことから始めること」だと語る遠山に、プロジェクトの舞台裏と成功の秘訣を聞きます。

パルテノン多摩
パルテノン多摩
  1. パルテノン多摩DXプロジェクトに踏み切った契機とその実績
  2. プロジェクトには多くの困難も。公共施設DXが乗り越えるべき壁とは?
  3. これからDXに挑む公共施設はどうするべきか 成功事例

1 パルテノン多摩DXプロジェクトに踏み切った契機とその実績

2020年、パルテノン多摩では大規模な建物の改修工事による施設のリニューアルに伴いプロポーザル型の公募が行われました。
要件には、リニューアル後も30年持続可能な管理運営が重要な要素として求められていました。これに対して私たちJCDは具体的な運営業務改革・DX導入推進の提案をしました。結果としてその点も大きく評価を受け、我々の参画する民間パートナーが、指定管理者として採択いただけることになりました。
提案内容のひとつとして例えば「ASP型施設予約システムの開発導入」「利用者登録を全てオンラインフォームで完結できるように刷新」などが挙げられます。

1 ASP型施設予約システムの開発導入
業務フローを洗い出し、施設予約システムをベンダーと共同開発。利用者登録から申請完了まで処理速度を30%削減。WEB決済機能やDXに必要不可欠なデータ連携APIを導入。
2 利用者登録の完全オンライン化
来館が必須であった諸手続きをWebフォーム+オンライン会議ツールの活用によって、必要な許諾・承認はすべてオンラインで完結できるように移行。
3 POSレジとクラウド会計システムの連動
連動させることができるPOSレジとクラウド会計システムを選定し導入。毎日の収納データをリアルタイムで一元管理を可能に。
4 マルチペイメント対応
現金のみだった決済方法をキャッシュレス化。クレジット、コンビニ払い等に対応できるよう決済システムを導入。

▲パルテノン多摩のこれまでのDX推進実績

―上記のような提案に際し、どのように課題を見いだしたのでしょうか。

まずは、JCDが今まで運営してきた施設で培ったノウハウを徹底的に洗い出し、お客様対応業務全体の業務プロセスを可視化しました。そして、そのなかでとりわけ職員の手間が膨大にかかっている工程を順位づけしました。

一方で、従来から利用者と接する中でストックしてきた課題や問題を改めて運営企画課のメンバー総出で見直し、施設側の業務負担の観点からだけでなく、利用者からの目線も取り入れることで、『オンライン利用者登録』や『マルチペイメント対応』などの改善案が、形になりました。
さらに利用者登録がオンライン化されたことで近辺の方たちだけでなくこれまでアプローチできなかった地方のプロモーターや、興行主からの施設予約が入るようになり、地域に新しい文化の風が吹き込まれました。

2 プロジェクトには多くの困難も。公共施設のDXに向け乗り越えるべき壁とは?

―それほどのメリットがありながら、一方で一般的に公共施設のDXがなかなか進まない理由とはなんでしょうか。

公共施設におけるDX推進の最大障壁は、『条例の存在』と『前例主義』だと感じています。例えば利用者登録のオンライン化を進める際にも、条例に『施設は利用者に対して利用許可証を交付しなければならない』『利用者は施設利用にあたって利用許可証を施設に提示しなければならない』と書いてあるわけです。これが、オンライン化においては障壁になります。これまでの慣習としては、この利用許可証は書面で発行されるもので、『事前交付』と『提示』はすなわち来館を必要としていたので『この条例がある以上、全てをオンライン化することはできません』という見解が行政サイドからは持ち上がります。

―この壁を、どうやって乗り越えたのでしょうか。

私たちは「ここで求められている交付とはなんでしょう?」「許可証は紙が必要であるとは書いていないですよね」「電子的な交付と実際の紙の交付とで、何か違いがあるものでしょうか?」といったことを、行政の担当の方々としっかりと議論しました。そうやって丁寧に対策を講じていくなかで、少しずつ行政側の理解も広がり「30年前に作った条例をもとに前例踏襲で処理するのではなく、ITの進化によって代替可能な手段ができているのであれば、それは柔軟に採用していいのではないか」というように考え方にも変化が現れ、システム化が進められるようになっていきました。

実際に作成した業務スキームの一部
実際に作成した業務スキームの一部

このように熱い情熱をもって、前例を打ち破る挑戦を続ける遠山らJCDというパートナーを、指定管理業者の代表団体である公益財団法人多摩市文化振興財団の総務課長鈴木さんはこのように評します。
 
 これまで財団だけで30年間運営してきたパルテノン多摩ですが、大規模改修工事に合わせて、様々な変革を求められてきました。新たにJCDさんたち民間パートナーと共同事業体を組み、民間パートナーの皆さんの知見を活かして、利用者の皆さんにとって、より使いやすい施設にすることもミッションの一つでした。特に利用者の皆さんに接するサービス部門であるJCDさんは利用者の目線に立ち、他施設運営の知見を活かしながら、財団だけでは気づけなかったようなところも積極的に提案、市と調整・交渉し、業務を推進してくださいました。
 実際にPOSレジや会計システムのDX連動を導入していただいたことで、これまで手作業で行っており、煩雑になっていた会計処理業務にかかる時間が大幅に削減されました。
 財団だけでは改善に一歩踏み出すのが難しくても、JCDさんがこれまで様々な施設運営で培ったノウハウとコミュニケーションデザインの力で一緒に乗り越えてくれる、よきパートナーです。

3 これからDXに挑む公共施設はどうするべきか 成功事例

ポイントは「小さいことから始めること」です。一気に全部を変えようとしてもなかなかうまくいかないと思います。まずは『とにかくここだけでも改善したい』という課題を洗い出して、効率化されるところを体感すると、DXを『自分ごと』と捉えることのできるメンバーが増え、流れが変わってきます。そこまでが最初の勝負どころだと思います。

もうひとつ重要な心構えとして、そこで生まれた余力で何をするかというところまで議論を深めておくべきだということです。私たちは『DXによって人員が削減できた』という未来を目指しているわけではありません。DXによって、公共施設が本来もっと力を割くべき利用者・市民のための活動にスタッフがよりよいサービスを提供できるよう目標やアイディアを必ずセットで考えていく必要があると思います。
それから『自分たちだけで悩まない』ということも成功の秘訣だと思います。実際に私たちも外部の優秀なシステムベンダーさんやDXアドバイザーさんからたくさんの支援と助言を得ています。もちろん、施設運営の、そしてコミュニケーションデザインのプロとして、私たちJCDのことも思い出していただけたら幸いです!

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