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JCD NOW!

JTBコミュニケーションデザインの様々な取り組みをご紹介します。

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感情を揺さぶる「物語」を届けるということ

JCD社内イベントレポート。
ON THE TRIP 成瀬氏が語る「心の揺れ動きにこそある絶景」

JTBコミュニケーションデザインでは2016年の営業開始以来、業務終了後の社内イベントとして「三田マジックアワー」を開催しています。「三田マジックアワー」は、社外から講師を招き、イノベーションにつながる最前線のインプットを得る場です。今回は、「ON THE TRIP」の成瀬氏をお招きして2019年6月に開催した「三田マジックアワー」の様子をレポートします。

第1部は、「思いから生まれる新しい価値とは?」と題して成瀬さんにお話をいただき、第2部は、JCDのプロモーション事業部エグゼクティブプロデューサー 川杉とのクロスセッションが行われました。

第1部 思いから生まれる新しい価値とは?

―Speaker――――――――――――――――――――――――――――――――

成瀬勇輝

成瀬勇輝氏
トラベルオーディオガイド 「ON THE TRIP」代表

早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。米国バブソン大学で起業学を学んで帰国後、世界中の情報を発信するモバイルメディアTABI LABOを創業。2017年、多言語対応型音声ガイドサービス「ON THE TRIP」創業。全国の寺社仏閣、文化的・美術的高価値のスポットをピックアップし、様々なアート活動にも従事。"バンで生活、サウナでミーティング" が日常。著書に『自分の仕事をつくる旅』『旅の報酬 旅が人生の質を高める33の確かな理由』。
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ホームレス?オフィスレス?バンでの暮らしとは?

今日はよろしくお願いします!
まず、僕の自己紹介も含めてお話しできればと思うんですけど、そもそも僕、今、家がなくて。家だけじゃなくて僕たちはオフィスも持ってないんです。最近では「成瀬勇輝 ホームレス」なんて検索されたりもしていますが、今は改装したバンを家とオフィスとし、日本全国を転々とする生活を2年ほど続けています。バンだから夏はすごく暑くて、冬は寒い。だから夏は北海道とか北のほうへ行って、冬は沖縄に行くという完全に渡り鳥みたいな生活をしています。

バンはバス会社の平成エンタープライズさんからスポンサードいただいたもので、全部取っ払って内装も塗装も一から自分たちで作りました。屋根にはソーラーパネルをつけて、電気を自家発電しています。バンでは2人から4人くらいが寝泊まりしていますが、ベッドは寝返りが一切打てないほど狭いし、洗濯機も冷蔵庫もお風呂もトイレもない。だから「どうやって生活しているんだ?」とよく聞かれます。僕たちは1、2ヶ月ごとに日本各地を転々としているんですが、滞在した町の中でお気に入りのサウナとかコインランドリーを見つけるんです。そして、主なライフラインは外にアウトソースしています。つまり「暮らしと街が溶けていく」という感覚を持ちながら生活をしているんです。

ON THE TRIP

世界を回って生まれた
"NOMAD PROJECT""TABI LABO"

では、なぜこんな生活をしているのかという僕のバックグラウンドをお話しさせていただきます。 僕は日本の大学を卒業後、ボストンにある起業に特化したバブソン大学に留学していました。それこそ名だたる起業家が講義してくれたりする大学で、贅沢な時間を過ごさせてもらったのですが、座学だけではわからないことも多くて。そこで世界で活躍している日本人の起業家やアーティストたちに会いながら、世界一周をしてみようと思ったんです。

旅の最中は、サンフランシスコで禅を行っているスティーブ・ジョブズの師匠といわれている人のところに滞在したり、サグラダファミリアの主任彫刻家の方に会ったり、時にはキリマンジャロに一週間かけて登ったり。その中で「NOMAD PROJECT」という世界中の起業家にインタビューした内容を大学生や20代の人たちに発信するようなメディアを立ち上げました。

・『個』が世界と繋がる、新しいライフスタイルを発信 「NOMAD PROJECT」
http://nomadp.com/

そうやって、1年近くかけて世界一周をしていると、いろんなアイディアが生まれてくるんですよね。日本とはまったく違う風景を見て、その場所の匂いとか、もっと言えば電車に乗ったら目に入ってくる広告も違うし、人の考えも違う。いろんなところに行って、いろんな人に会うことで、今まで考えも及ばなかったようなことが浮かんできて、それが掛け算式にアイディアとして生まれていくという体験がこの1年の旅で非常に多くありました。僕が旅の哲学書だと思っている『旅する哲学』というアラン・ドボトンという人が書いた書籍の中で"旅は思索の助産師である"という一文があります。「アイディアと移動距離は比例する」とよく言われていますが、新しいアイディアを生み出すために旅に出るということは、僕にとって、とても大切なことなんです。

帰国してからは、本を2冊執筆しました。そして世界中のニュースや僕が感じた社会問題など、世界の面白い情報を拡散する記事を掲載した「TABI LABO」というモバイルメディアを立ち上げた後、「ON THE TRIP」を作ることになります。

・トラベルオーディオガイドアプリ 「ON THE TRIP」
https://on-the-trip.com/

トラベルオーディオガイドアプリ「ON THE TRIP」

大切にしている、「物語」。
100人に届く必要はない。一人の感情を揺さぶりたい。

「ON THE TRIP」が何かと簡単に説明すると、美術館などで借りるオーディオガイドをスマホで体験できるサービスです。日本全国のお寺や美術館と提携して、音声コンテンツを多言語で展開しています。その場所の説明やいつ誰が作ったかなどの情報は、誰でもすぐに調べればわかります。そこで僕たちが一番こだわって大切にしているのが、その場所の「物語」です。例えば、新宿御苑のガイドは、うちのライターが田舎から出てきたばかりの新卒の子が新宿御苑に行ったらどんなことを思うんだろうかと想像して作ったガイドです。実際にこのガイドを聞いた方が、聞きながら本当に涙が出てきて、仕事を頑張ろうと思ったと連絡をくれたことがありました。

僕たちは100人中100人の心に届くものは目指していません。1人でも感情が揺さぶられるものを作ることに注力しています。お寺、美術館問わず街のガイドなどでも、その場所に物語があれば、なんでもガイドは作ることができるんです。

新宿御苑

心の揺れ動きにこそ絶景がある。

「旅する哲学」のあとがきに、僕が「ON THE TRIP」を作った理由の一つがあります。簡潔に言えば「旅の絶景は心の中にある。最後の秘境は僕たちの感受性にあるのではないか」ということが書いてあります。同じような風景が見えている場所でも、その場所で起こった物語を聞くことで人の心が揺れ動く。その心の揺れ動きこそが絶景であり、秘境であるということです。僕の心の中には、この文章がすごく刺さっています。

このような体験は世界一周をしているときにも感じました。それが、サグラダファミリアの主任彫刻家・外尾悦郎さんにお会いしたときのこと。外尾さんは34年前に単身スペインに渡って、ずっと石を掘り続けている方です。その方にサグラダファミリアをマンツーマンで案内していただき、屋上でガウディの想いや、外尾さんの想いを聞いたときに自然と涙が出てきたんです。サグラダファミリアには以前も行ったことがあったけれど、話しを聞いた後にはまったく違う光景が広がっていました。その体験が今でも忘れられないくらい心に残っています。つまり、こうした感動体験が日本各地、世界中でできれば、今まで同じように見えてきた風景もまったく違って見えるんじゃないか。そう思って「ON THE TRIP」を立ち上げたんです。

スマホはもうすぐ違うデバイスに生まれ変わっていくでしょう。リアルな場所は変わらないけど、デジタル体験は変わっていくと思います。例えば、耳の中にデバイスが埋め込まれていて、その場に行ったら案内が始まるなど、より旅の中でリアルとデジタルが融合していく世界が近づいています。今後は、その場所に行ったときに目に見えない物語や、感受性をどう動かしていくかが旅の中ではより大事になってきますし、そういうものを僕たちは作っていきたいと思っています。

でも、僕たちには仕事をしているという感覚はあまりなく、いろんな地域を見て、転々と遊んでいる感覚なんです。そして新しい景色を見ることで、イノベーションが生まれてくると思っているので、今後もそういう働き方を会社としても体現していきたいですね。

成瀬勇輝

 

第2部 成瀬氏×JCD川杉によるトークセッション

―Speaker――――――――――――――――――――――――――――――――

川杉章

川杉章
JTBコミュニケーションデザイン プロモーション事業部 エグゼクティブプロデューサー

1998年に入社以来、地域プロモーション事業を担務。社内新規事業に参画後、プランナーを経て営業職にて地域振興、スポーツツーリズム、地域ブランディングをテーマに、農林水産省フードアクションニッポン:地域プロデューサー/旅フェア日本:統括プロデューサー/スポーツツーリズム推進基本方針の策定やJSTA(日本スポーツツーリズム推進機構)の立ち上げなどを実施。
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成瀬さんとの出会い
「エモさ」があったから、共同で提案することに

川杉
成瀬さんのことは一方的に知っていて、デジタルメディアですごいことやっている人がいるなと思っていたんです。紹介してもらって実際にお会いしてからは、仕事観や世界観にも影響を受けて、できる幅が広がったんですね。なので、成瀬さんとの出会いにはとても感謝しています。

成瀬
出会って2週間で一緒に企画作りましたよね。

川杉
そう。成瀬さんやON THE TRIPさんは、一言で言うとすべてが「エモい」んですよね。そちらのベクトルをグッと強く持っている成瀬さんたちの力をお借りしたいと思って、高知県に向けたある提案を一緒にすることになりました。それが、ジェットスターの高知県就航をきっかけに、ジェットスターと高知県が一緒になって新しい顧客を作っていこうとするプロモーション企画です。
あまり知られていませんが、高知の自然環境は素晴らしく、全国トップクラスのアウトドアフィールドがあるんです。そこで、アウトドア目的の高知旅行をジェットスターで誘引することで、新しい高知県の顧客を獲得していこうと。ファンができれば、高知県の将来はもっと変わっていくんじゃないかと思いました。

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JCDとON THE TRIPの共同企画
高知×Outdoor

川杉
ON THE TRIPさんには、ジェットスターのwebコンテンツ「フライ&アクティビティ」の写真の監修とガイドアプリの制作をしていただいています。仁淀川アウトドア攻略ガイドアプリでは、アクティビティスポットのHow toや地元グルメ、絶景スポットなどを世界的フォトグラファーの本間寛さんが撮影した写真とともに紹介しています。
また、世界的なフォトグラファーの本間寛さんのアウトドアイベントも開催しました。仁淀川の清流と自然をバックに来場者の撮影を行ったり、撮影のレクチャーを受けたりすることができるスペシャルなイベントで、コンテンツに撮影してもらった写真は、どれもとてもいい写真です。

・ジェットスターのwebコンテンツ「フライ&アクティビティ」
https://campaign.jetstar.com/flyandactivity/outdoor/

成瀬
ON THE TRIPのガイドでは「仁淀川はなぜ青いのか」をタイトルにして、バンで仁淀川エリアに1ヶ月滞在しました。このガイドは歴史だけを紹介するのではなく、どうせなら自分たちが一番面白いと思う遊びを、いろんな場所で体験していき、それを紹介していくというとことん遊びつくすものにしたかったんです。だからライターの志賀がとにかくいろんなアクティビティを体験して、その原体験をガイドにしていきました。

仁淀川はなぜ青いのか"

・ジェットスター×ON THE TRIP 仁淀川はなぜ青いのか?
https://on-the-trip.com/news/58

川杉
仁淀川って川が本当に青いんですよ。でも青い理由は解明されていません。それがエモすぎるON THE TRIPさんの琴線に触れた。明確な答えはないけれど、自分なりの答えを見つけることに旅の楽しさがあるということで、このタイトルになったと僕は受け取っています。
今回、普通の地域プロモーションが、成瀬さんに参加してもらうことで「エモい」ものになったし、アプリやコンテンツも長期的に残るものになりました。高知県の誘客にもかなり寄与しています。 僕たちも企画を作ったり、お客さんと話したりしている中で、自分たちがどんな価値を生み出せるかと苦労して考えていると思うんですが、その1つのオプションとして、最強のパートナー・引き出がON THE TRIPさんなのでは、と思っています。成瀬さんたちは今回のプロモーションがきっかけで、本も作っちゃったんですよね。

成瀬
そうなんです。嬉しいことに、今回のガイドをとても評価していただいて、一緒に本を作りたいと言ってくださった。その気持ちに応えたいと思い、「仁淀川はなぜ青いのか?」という書籍をこれから販売していくことになりました。
川杉さんは、僕たちのことをエモいって言ってくださっているんですけど、僕たちにとって今回のエモい瞬間は「一緒に書籍を作ろう」と言ってくださること。そういう瞬間のために、何があっても全力を出しているし、どんな仕事もその瞬間があるからできるということを強く実感しています。

「エモい」と「キモい」は紙一重?!

成瀬
最近、「エモい」と「キモい」は紙一重なんじゃないかと思っているんです。先ほどの新宿御苑のガイドもアニメ声で、キモいと思う人もいるかもしれない。でも100人聞いて100人に刺さるコンテンツは、人の心に残らないコンテンツが多いなと思っています。本当にエモいものを作るのであれば、100人中95人がキモいと思っても、残りの5人が5年後、10年後、もしかしたら一生心に残るようなものを作り続けたいですね。そうでなければ、本当にいいものはなかなか生み出せないんじゃないかとも思います。

川杉
僕らも観光地へ誘客する仕事があったりしますが、100人中100人に来てほしいと思っても、それは無理な話で。それよりも、このエリアに行きたいと思ってくれている人を100人中2、3人つかまえてファンにする方が、地域にとってもハッピーな結果になっていくんじゃないかと思っています。

成瀬
僕たちは街のガイドも作ったりするけど、基本的にはお寺や美術館など施設のガイドを作ることがほとんどです。その場所のコンテンツをどう磨いていくかを考え、その磨いた魅力をガイドに乗せて、売り上げを上げていくことのお手伝いをしています。実際に今、とある観光施設のガイドをJCDさんと制作しようと話していますが、それが成功すれば事例の一つとなります。今後、JCDさんとご一緒できる幅が広がっていくと嬉しく思います。

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