を支える「農業由来のJ-クレジット」

最上階の25階には新宿の景色が一望できる人気のレストランがあり、「早起きしたくなる朝食」をコンセプトにしたビュッフェスタイルの朝食を提供するなど、宿泊のみならず「食」にも定評のある『新宿ワシントンホテル』。コロナ後のインバウンド再来により、海外からのお客様の食べ残しが増えたことに心を痛めたそうです。「各国の食事の習慣などがあるとはいえ、なんとか食べ残しを減らしたい」という思いから、「MOTTAINAI(もったいない)をテーマにしたSDGs宿泊プラン」をスタートさせました。1泊の宿泊でケニアをはじめとするアフリカの地に10本の苗木の植樹を寄付するプランで、朝食のビュッフェでは日本語のほか英語、中国語、韓国語の全4か国語で食べ残しを控えていただくよう啓蒙を行いました。

「このプランを通して、ホテルは食を支える一次産業と深い関わりがあることを意識しました。そして、何かこの産業を守る活動ができないだろうか、と考え始めました。」と話すのは新宿ワシントンホテルとホテルグレイスリー新宿の企画を担当する、藤田観光株式会社の松井昌子さん。そんな時に提案を受けたのが、JCDの新しいソリューションとしてスタートしたばかりだった「農業由来のJ-クレジット」を活用したCO₂ゼロSTAY®でした。

地とホテルを繋いだ
「お米のプレゼント」

「農業由来のJ-クレジット」に特化したCO₂ゼロSTAY®は、米づくりの工程にある「中干し」(田んぼの水を抜いて干上がらせる)期間を延長させることで生み出されるクレジットを使用しています。

「それを知って、お客様に日本の農業を考えていただくきっかけにもなるのではないかと思い、この宿泊プランにお米のプレゼントをつけたいと考えました。せっかくプレゼントするなら、CO₂ゼロSTAY®で使用するJ-クレジットを生み出している田んぼのお米にしたいと思い、JCDさんに相談しました。」と松井さんは振り返ります。

JCDを通して巡り会ったのが新潟県上越市の農業法人 株式会社蛍の里のお米でした。

「ちょうど米不足の時期と宿泊プランの企画の進行が重なってしまって、プレゼント用のお米が確保できるか心配だった時期もありました。社内からもタイミングが悪いのでは?という声が挙ったのですが、蛍の里さんが尽力してくださったおかげで、無事にプランをスタートさせることができました。」

プランを利用されたお客様からの反響は上々。松井さんは、子どもたちにも農業由来のJ-クレジットを知ってもらいたいという思いから、夏休みに小学生を対象として開催するホテルのSDGs教室プログラムの1つに組み込みました。米づくりや農業由来のJ-クレジットについてわかりやすく学んだ後、子どもたち自身が産地で穫れたお米でおにぎりを握ってランチとして食べる企画は大盛況。夏休みの自由研究のテーマにした子どもも多かったそうです。

「私自身も環境問題と食育、そして農業の未来を考える良い機会となりました。」と松井さんは話します。

業界の新たな価値創出

「J-クレジットを生み出す側となったことで環境問題を考える大きなきっかけとなりました。」と話すのは、株式会社蛍の里代表取締役社長の石田寿久さんです。

蛍の里は、農家の高齢化などで耕作できなくなった田んぼを借り入れ、農業従事者が社員として働く企業という形で農業の運営を行っています。音楽を聞かせて育てたお米の商品化や楽しく働く姿のSNS発信など、独創的な取り組みにも力を入れています。石田さんが米づくり以外にも目を向ける背景には、米の流通を卸に頼りすぎてきたことが農業の発展のためにならなかった、という思いがあるからだそうです。

「J-クレジットの創出の話をいただいた時は、正直、環境問題に取り組もうという考えより、普段の作業を変えたり増やしたりすることなく収入に繋げられるのならやってみようか、という感じでした。実際に取り組んでみて分かったのですが、農業由来のJ-クレジットの創出は本当に農家が負担なく取り組むことができる。これは農家の収入増と環境保護の両面を叶えることができる新たな価値創出の機会だと思うようになりました。」と石田さんは話します。

石田さんが収益のことを考えるのは、社員の方々に農業以外の企業と変わらない、できればそれ以上の給与を出したいという考えがあるからだと言います。

「社員の皆さんに誇りを持って農業に従事してほしい。さらに、有能な人材を確保して農業界の発展を支えたい。企業として収益を上げ経営の安定を図ることは、生産者のみならず米の消費者のためにも必要なことだと考えています。」

そして石田さんは松井さんとのやりとりで、ホテルが環境問題に真剣に取り組んでいること、産地に目や心を向けていることを知り、なんとか協力をしたい、農業の現場からも環境問題に対峙したい、という思いが強くなったと言います。

「もともと農業は閉鎖的なところがあって、他の業界の人たちと交流することがあまりない世界。J-クレジットの取り組みで他業界の人との出会いが増えれば、何らかの新しいつながりができるのではないかと期待する部分もありました。実際、JCDさんや新宿ワシントンホテルさんなど、今までにない出会いとつながりができたことは想像以上の出来事でした。」

会いが後押しする農業の未来

上越市では農業体験をふるさと納税の返礼品にする取り組みを行っており、石田さんの畑でも実施しています。農業体験は農家の繁忙期に重なり人手が不足する時期ですが、「上越市の職員が一緒に参加してくれるから頼もしい!」と石田さんは言います。上越市総合政策部総合政策課ふるさと応援室の市川成治主任は、「農業を体験することで、子どもたちに米作りを知ってもらいたい、興味を持ってもらいたい。それがきっかけになり、将来農業を目指したいと思う子どもたちが増えることにつながるかもしれない。」と話します。現に新潟県農業大学校には「子どもの頃の農業体験が強く心に残っているから、この道を選んだ」という学生もいるそうです。小さな体験が将来の米農家の希望につながる可能性があるのです。

残念ながら、2025年の米づくりでは雨不足と日照りが続き中干しの延長期間が作れず、蛍の里ではJ-クレジットを生み出すことができなかったそうです。

「気候変動の問題のためにやっている活動が気候変動のせいでできなくなってしまうことは、解決すべき課題だと感じています。今後、気候に左右されることなく農業の産地で取り組めるサステナブルな活動が生み出されることに期待したいです。」と石田さんは話します。

今回の企画で蛍の里に実際に足を運んだ松井さんは、農業の現場が抱える課題や取り組みを知ると同時に、ドローンを使用した稲の成長管理やハイテクな機械を駆使した収穫、快適な環境で働ける重機や設備など、現代の農家を見て驚いたと言います。

「農業由来のJ-クレジットを活用したCO₂ゼロSTAY®プランで宿泊していただくことがメタンガスの削減につながり、さらに農家の皆様を応援することにつながるのだと実感しました。」

宿泊プランにお米のプレゼントをつけたい、という気持ちで動き出した松井さんの企画は、新宿ワシントンホテルと新潟のお米を繋ぎ、産地である蛍の里を繋ぎ、環境問題という同じテーマの中で米農業の未来の可能性にも希望を見出しています。

左より、農業法人 株式会社蛍の里 代表取締役社長 石田寿久様、
藤田観光株式会社 WHG事業部 WHG新宿 企画課 松井昌子様

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