羅の地に佇む、非日常を味わう至福の空間

箱根の山道をつらつらと車で登り、その頂も近い山間にふと現れる温泉宿、『強羅花扇 円かの杜』。駐車場から階段を上がると、美しい景色が一望できるエントランスでカタコトと回る水車や、美しい絵画のような丸窓など、いくつもの円形の意匠がそこここに見受けられます。『円かの杜』は、「円=縁」を紡ぐ特別な場所をコンセプトにしている高級旅館です。

この宿の自慢は、2本の源泉から湧き出る豊かな温泉。山道のような通廊をもつ大浴場と、全客室に完備された露天風呂の湯船を満たし続けています。美しい建物に森閑とした心地よい風が通り抜け、ここはまさに別世界。世界中から訪れる人々に安寧な時間を提供しています。

『円かの杜』のもうひとつの至福といえば、日本中から厳選した旬の材料で提供される京懐石料理です。食材の旬が生み出す一期一会の美味を求めて訪れるお客様も多く見受けられます。

「2019年に箱根を襲う大きな台風の災害があって、それをきっかけに地球の温暖化を自分事として考えるようになりました。」と話す女将の松坂美智子さんは、この台風で大切な旅館をひとつ、失いました。大正時代の美しい建造物を引き継いできた老舗旅館『強羅花扇 早雲閣』は、復旧できないほどの被害を被り、閉館を余儀なくされたといいます。

「それまでは、想定もしなかった量の雨がニュースで取り沙汰されていても、自分には関係ないという気持ちでいました。実際に被害にあったことで、私たちが排出するCO₂が地球の温暖化に直結していることを思い知りました。そして、子どもたちの時代をどう変えてしまうのだろう、出来ることから取り組もうという思いに至り、CO₂の削減は義務だと感じるようになりました。」

味しく環境問題に取り組む、
世界初の水素調理料理

女将の松坂さんが最初に取り組んだのが、厨房から排出されるCO₂の削減のための、当時まだ相当珍しかった水素調理コンロの導入です。設備投資が必要で導入までに3年かかったとのことですが、これをもって世界初の水素調理方法で料理を提供する宿となります。水素を燃焼させるコンロは燃焼温度が高く、外はカリッと中はふっくら、といった素材を活かす調理ができることや、一般的なガスとは違い無臭の熱源であるため、素材が活きる美味しい料理を提供することができるそうです。水素調理で供されるステーキの割烹メニューをお目当てにしたリピーターは多いといいます。スタッフの小野拓馬さんは、「食事を楽しみながら環境問題に取り組めるということで、大変ご好評をいただいています」と話します。

環境対策やサステナブルな取り組みとして、ゴミの削減にも力を入れています。厨房では料理長率いる板前さんたちが率先し、端材の食材を有効活用する食ロス視点のメニュー開発に取り組んでいる中、それでも出てしまう残飯の処理に、バクテリアの力で有機成分を分解・浄化し、安全な下水として処理するディスポーザーを導入。館内からペットボトルを廃止しリターナブル瓶に変える、客室で提供するアメニティも脱プラスチック素材に変更しました。

「アメニティがガラリと変わったとき、リピーターのお客さまからご不便の声があがらないかと少し心配していたのですが、環境問題に取り組んでいるのね、という協力的な反応が多く、お客様の意識が高いことに気付かされました」と小野さんは話します。

「実は、再生エネルギーの取り組みが暗礁に乗り上げたことが、CO₂ゼロSTAY®導入のきっかけでなんです。」と女将の松坂さんは話されます。箱根の空気には硫黄が多く含まれることで機械の劣化が早く、エアコンなどの交換も頻繁に行う必要があるそうです。温泉の大地の恵みを受けて商売をしているため、この環境を受け入れているものの、この地での再生エネルギーの導入にはさまざまな課題があり、大規模な設備投資をすることはまだ難しいと感じていたところ、総支配人でご主人の松坂雄一氏が、JTBコミュニケーションデザインが提供するCO₂ゼロSTAY®と出会います。

CO₂ゼロSTAY®と、
その先を見据えた展望

「JTBグループとは長いお付き合いなのですが、環境問題に対する考え方や取り組み、関心が、私たちの想いと合致している。何よりJTBグループへの信頼が厚かったことが、導入のきっかけです。」と話される松坂総支配人。そして女将の松坂さんも、「今すぐに何かをすることは難しいと考えていた時に、カーボンクレジットという形の再生エネルギー貢献を知りました。これならすぐに始められるという思いで、すぐ導入を決めました。」と振り返ります。

これだけのサステナブルな取り組みを前衛的に行っている中、女将の松坂さんは、CO₂ゼロSTAY®をはじめ多くの環境への取り組みをあえて、あまり公表せずに続けてきたと言います。

旅館を訪れる人々の目的はリラックスすること。その対価として宿泊費を受け取る関係性の中で、サステナブルな意識の押し付けはしたくない。そこが環境問題と対峙するときの旅館業特有の難しさだと感じているそうです。

「ですが、CO₂削減の取り組みは、森林や農業といった一次産業や、そこで働く人々に支援が行き渡る活動に役立てることができるというその意義を、多くの人々に知ってもらうことこそが大切だと思っています。宿泊したお客様の人数に対してカーボンオフセット代を経営側が負担するというものですから、色々な経営環境がある中、すべての宿泊施設で導入すべきだとは言えない部分があります。ただ、これからの旅館業界を考えてみれば、自分たちの土地、自分たちの家族、子ども、孫、未来につながっている自分自身の問題だと思うんです。自分が今存在していることで未来に何かを繋げるために、どんな貢献ができるのかと考えると、生きていくために必要な投資なのではないかと思っています。」

環境問題に対峙するものとしての使命と責任を持って、サステナブルな取り組みを続けていたいと話す女将の松坂さん。CO₂ゼロSTAY®でのカーボンオフセットの次は、再生エネルギーの実現で実際にCO₂を出さない実践に繋げることを目標としていると話します。

大切なものを失ったことで自分たちの向かうべき未来を見出し、そこに向かってしっかりと突き進む姿は、旅館業界のみならず、日本の、そして世界の環境問題に灯す道標となることでしょう。

左より、スタッフ 小野拓馬様、女将 松坂美智子様

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