2026/08/31
学生が学会を変える
─医学会の未来を育てる戦略─

| 学会名 | 第76回日本東洋医学会学術総会 |
|---|---|
| 会 期 | 2026年6月12日(金)~14日(日) |
| 会 場 | 富山国際会議場、富山市民プラザ |
| 参加人数 | 3,300名 |
学生参加が切り拓く、学会の新しいかたち
第76回日本東洋医学会学術総会の会場では、スーツ姿の学生たちが目立っていた。テーマ「東洋医学の発展~次世代への新たな挑戦~」を掲げた今回の総会において、参加者の約1割を学生が占めるなど、学生の積極的な参画は際立った特徴の一つとなっていた。
専門性の高い議論を中心に構成される学術総会において、若い世代の参加をどのように促し、組織としての持続性をいかに確保するか。この課題に対し日本東洋医学会は長年にわたり取り組みを積み上げてきた。学生参加の促進は、一時的な施策ではなく、学会の将来を見据えた人材育成戦略の一環として捉えられている。
学生参加の取り組みを10年以上にわたり主導してきたのが、日本東洋医学会副会長の高山 真氏だ。参加者の数そのものを追うのではなく、将来の医療を担う一人ひとりを育てることに重点を置きながら、地道に取り組みを積み重ねてきたという。
背景にあった世代構成の課題
こうした取り組みの背景には、学会員の世代構成に関する課題があった。中堅・若手層の比率が十分とはいえない状況の中で、知識や臨床経験の継承をいかに進めるかが、学会全体の重要なテーマとなっていた。
そこで同学会が着目したのが、医療人としてのキャリアの起点にある「学生」だ。学生時代から学会に接点を持つことで、継続的な学びの場としての役割を強化し、将来的な参画につなげていく。単なる参加促進ではなく、学びの質と継続性の向上を重視したアプローチが、取り組みの根幹に据えられている。当初はごく小規模な試みに過ぎなかったものが、一つひとつの工夫を重ねながら、段階的に今のかたちへと育っていったという。
学生主体で回る運営モデルの構築
その象徴的な取り組みが、2019年から学術教育委員会が運営を開始した「東洋医学 研究会・サークル交流プログラム」だ。全国の大学で活動する研究会やサークルが集まり、それぞれの活動内容や学びの成果を共有する場として、本プログラムは設けられている。発表に加え、大学の枠を超えた意見交換の機会も用意されており、普段は離れた地域で活動する学生同士が直接顔を合わせ、横断的なつながりを生み出している。
また、参加した学生が翌年の運営にも関わることで、学生自身が主体となって継続的に活動を発展させる仕組みが形成されている。
もう一つの柱が、梁 哲成氏らが発起人となり2023年より運営を開始した「全国学生漢方選手権大会(仲景杯)」だ。全国の医学生がチームを組み、提示された症例をもとに診断や治療方針を検討し、プレゼンテーションと討論によって競い合う。発表後には他チームとの質疑応答が行われ、異なる視点を交えた議論が展開される構成となっている。表彰式では、大きな歓声と喜びに包まれた。
取材当日も、会場の一角では学生チームが真剣な表情で発表資料を確認する姿が見られた。討論が始まると、臨床現場さながらの専門的な議論が交わされ、会場には熱気が漂っていた。知識の整理にとどまらず、論理的な考察力や他者の意見を踏まえて議論を深める力を養う場として、学習と実践が一体となったプログラムが機能していた。
これらの取り組みに共通するのは、学生自身が考え、発信する機会を重視した運営設計だ。学会はそのための環境を整えている。これにより、学生同士が相互に刺激を受けながら学びを深めていく構造が形成されている。
この流れを受け、3年前には学術教育委員会のもとに「学生部会」が正式に発足し、学会としての継続的な支援体制が整った。学生の取り組みが、その場限りのものではなく、学会の仕組みの一部として根づいてきたといえる。
さらに、こうしたプログラムに参加した学生が次年度以降の企画や運営に関与するケースも見られる。継続的な関わりを生む仕組みにより、学会内に人材育成の循環が形成されており、学会の活性化と次世代人材育成の両立を支える基盤となっている。
入会・参加のハードルを下げる多面的な支援
学生参加を促進するため、制度面でも多様な工夫が重ねられている。
- 入会費や参加費の無償化
- QRコードを活用した入会手続きの簡略化
- 大学のサークル単位での参加支援(旅費補助など)
なかでも特徴的なのが、個人ではなく大学のサークル単位での参加を促している点だ。グループでの参加を基本とすることで、上級生から下級生へと参加の輪が自然に引き継がれやすくなっている。
これらの支援により、参加の心理的・経済的なハードルが大幅に下がった。一度参加した学生が翌年以降も後輩を連れて再参加するケースが増えており、参加者層の拡大と定着の両面に効果をもたらしている。こうした工夫の積み重ねが、「来年も参加したい」と思える体験につながっているといえる。
学会にもたらされた変化
学生参加の拡大は、学会の雰囲気そのものにも変化をもたらしている。
従来は専門家による議論が中心であった場に、学生による発表や活発な質問が加わることで、より開かれた雰囲気が醸成されている。議論のあり方にも変化が見られ、評価・指摘中心のスタイルから、学びを促す前向きなフィードバックを重視する傾向が強まっている。若い世代の発言には前向きで建設的な声をかけようという空気が、会場のあちこちで感じられるようになった。
こうした変化は、初心者でも参加しやすい環境づくりや、多職種・分野横断的な交流の活性化にもつながっている。学生の参加が触媒となり、学会全体の開放性と活力が高まりつつある。
長期的視点で捉える人材育成戦略
これらの取り組みは、単独のプログラムとしてではなく、より大きな戦略の中に据えられている。大学教育、臨床現場、指導医育成といった多層的な取り組みと連動しながら、東洋医学の理解と活用の裾野を広げていく構造が築かれている。
その最終的な目的は、東洋医学の発展にとどまらず、医療の質の向上を通じた社会への貢献にある。学生支援の取り組みは、その基盤づくりとして重要な役割を担っている。目の前の成果だけでなく、10年、20年先を見据えた取り組みであることが、この戦略の特徴といえる。
持続可能な学会運営モデルとしての示唆
日本東洋医学会の取り組みは、今後の学会運営に対していくつかの示唆を提供している。
- 学生を「参加者」ではなく「共創者」として位置づけること
- 継続的な関与を生む仕組みを設計すること
- 教育と学会運営を一体として捉えること
学生参加の促進は、単なる若返り施策ではない。人材育成と組織の持続性を両立させる戦略的な取り組みであり、学術総会の新たな価値創出の可能性を示している。

取材協力者プロフィール
高山 真 氏
一般社団法人 日本東洋医学会 副会長
日本東洋医学会の副会長を2期にわたり務め、学術教育委員会では学生部会・若手部会の創設を主導した。全国の医学部における漢方医学教育の普及にも長年携わっている。
まとめ(編集後記)
学会は、研究成果の発表の場にとどまらず、人材を育て、知を継承する役割を担っている。日本東洋医学会が展開する学生主体の運営モデルは、その機能をより強化する取り組みとして注目される。
次世代を担う人材が早期から学会に関わり、主体的に活動する――その循環が、学会の持続的な発展と社会への価値提供を支えている。
協力
- 第76回日本東洋医学会学術総会 会頭 貝沼 茂三郎 氏
- 一般社団法人 日本東洋医学会 副会長 高山 真氏
- 富山市民プラザ 様
